イベント当日に取り上げられなかった質問に回答します!【データが導くPOPsな科学⁉ ~予測と予報~】

2021年3月20日にオンラインのサイエンスコミュニケーションイベント「データが導くPOPsな科学!? ~予測と予報~」を開催しました。イベント当日にて、配信中の機材トラブルにより、視聴者の皆様にご迷惑をおかけしたことをお詫び申し上げます。

当日の様子のダイジェスト版動画をYouTubeにて公開しています。ぜひこちらをご覧ください!

本記事ではイベント中に取り上げられなかった、「化学汚染」「予測と予報」などに関するご質問にお答えします!

化学汚染はいつ頃から始まったのでしょうか?江戸時代とかは無さそうな気がします。

残留性有機汚染物質(POPs)については、実際にその化合物が使用されるようになってからなので、江戸時代ということは無さそうですね。プラスティックも同様です。極端な話、その時代の地層に存在しない物質による化学汚染は起こっていなかったはずです。一方、鉛やヒ素など、元々自然界に存在していた物質による化学汚染は、江戸時代やそれ以前の時代にもありました(Järup, 2003)。鉛中毒やヒ素中毒がその典型です(Riva et al., 2012)。水俣病の原因とされるメチル水銀やカドミウムも、元々自然界に存在していたもので、現在は禁止されている使用法で水銀中毒になった先人も多かったと考えられています。

蛇足ですが、化石燃料の使用によって引き起こされている地球温暖化現象(気候変動の一部)の起源は産業革命ではありません。人類は、森林(二酸化炭素の吸収源)を伐採して都市をつくり、定住生活を始めた段階で地球温暖化に寄与していました(Ruddiman et al., 2020)。さらに、農業をはじめ、水田(メタンガスの放出源の一つ)をつくることでも、地球温暖化に寄与していました。人新世ほどの規模ではないにしても、地球環境問題はずっと昔からあったということですね。

回答:新潟大学自然科学系(創生学部担当)准教授 半藤 逸樹

化学汚染で一番の被害者は誰だろう?

自然界では食物連鎖によってより高次の捕食者ほど、より化学物質が濃縮され生物体内に蓄積されていきます。従って、食物連鎖の頂点に君臨している頂点捕食者のシャチ(Orcinus orca)が最も高濃度に化学汚染されており、生殖や免疫機能に無視できない影響が出ているようです(Desforges et al., 2018)。人間活動による被害者は、人間自身だけではないということです。

回答:新潟大学理学部3年 吉田 周平

今からできる取り組みは?

化学汚染を防ぐという意味では、「有害性」、「長距離輸送性」、「生物蓄積性」、「難分解性」といった汚染物質の性質を理解し、多くの国が国際的に対策することが求められ、国際条約に基づく法整備などの取り組みが行われています。

 また、化学汚染による被害を避けるといった意味では、地球全体で汚染物質の暴露量を予測する研究などが行われており、各地の汚染度合予測を明確に示すことによって、汚染されている水産資源を意図的に避けるシステム構築などへの応用が期待されます。

回答:吉田 周平

個人でできることは?

環境問題に関する一つの課題として、SDGs14「海の豊かさを守ろう」でも取り上げられているように、海の化学汚染が深刻化しています。これらの問題のステークホルダーが私たちであることを理解し、環境に配慮してバイオプラスチックの商品を選ぶなど、環境に負荷をかけない選択をするよう日々心掛けていきましょう。もちろん、個人個人が、地球環境を守る意識と環境リテラシーを持つことが大切です。

回答:吉田 周平

温暖化対策が現状一番注目されていますが、PM2.5などの化学物質の大気汚染も今後どうなっていくのか現状の予測を教えて欲しいです。

PM2.5の時空間分布はPOPs同様に、気候変動そのものに影響を受けます。予測の一例を紹介すると、硫酸塩や有機エアロゾルなどを主要成分とするPM2.5の地球全体での2100年までの増加・減少傾向は、気温上昇・低下のそれに似ているという予測があります (Westervelt et al, 2016)。すなわち、西暦2100年時点では、放射強制力(=地球温暖化を引き起こす効果)を8.5 W/m2と想定したシナリオ化でPM2.5が全球平均で増加傾向(> 4.2 mg/m3)、放射強制力を2.6 W/m2と想定したシナリオ化でPM2.5が減少傾向(< 3.9 mg/m3)となる予測です。増加・減少の地理的分布は複雑ですが、日本は年間平均でどちらのシナリオでもPM2.5が増加傾向となる可能性があるようです。

回答:半藤 逸樹

化学汚染で気になるのは、マイクロプラスチックと最近はあまり耳にしない環境ホルモンです。そう言えば、大気汚染という言葉もあまり日本では聞かれなくなりました。実態はどうなのか、改善されているのか、放ったらかしなのか現状を知りたいです。

化学物質の内分泌撹乱作用については,確かにメディアで取り上げられる機会は減ったと思いますが,学会では継続的に報告されています。1990年代後半に大きな問題として取り上げられて以降,多くの研究が実施され,化学物質の有害性のひとつとして認識されています。そのため,性ホルモン受容体に対するアゴニスト(作動剤)・アンタゴニスト(拮抗剤)作用を検出するin vitro試験や,魚類の繁殖・再生産への影響を評価するための一世代および多世代試験などの国際的に統一された試験法が確立されました。これらの試験法を用いて有害性評価およびリスク評価を実施する体制が構築されたという状況です。

大気汚染については,国立環境研究所が運営する「そらまめくん」(https://soramame.env.go.jp)において,PM2.5や光化学オキシダントなどの大気汚染物質を常時定点観測したデータを見ることが出来ます。オープンデータですので,関心がある方はアクセスしてみることをオススメします。APIも公開されているようです。

回答:愛媛大学沿岸環境科学研究センター講師 仲山 慶

新型コロナのために世界中でマスクや消毒薬の需要が増えていると思いますが、そのために環境への悪影響が増えているのではないかと思われます。実際はどうなんでしょうか?

新型コロナウイルスのパンデミックにより人の移動が抑制された結果,大気汚染が改善したことや,ビーチがキレイになった,騒音が減ったなど環境に好影響があった一方で,食品のデリバリーに使用される包装材由来のゴミや,医療ゴミなどの廃棄物が増加したことに加え,リサイクル工場で働く作業員の感染リスクを下げるために廃棄物のリサイクルを減少せざるを得ないことなど,環境に負の影響も生じていると報告されています(Dharmaraj et al., 2021)。使い捨てのマスクは化学繊維を含みますので,道端への投棄など不適切な処理によってプラゴミ,ひいてはマイクロプラスチックの発生源となることが指摘されています(Fadare and Okoffo, 2020)。個人的な感覚でも,道に捨てられているマスクをよく見かけるようになったと思います。コロナウイルスの感染拡大防止やゴミ問題を改善するためにも,適切に廃棄する必要があると思います。

回答:仲山 慶

天気と科学のデータが予報にどのように結び付くのか、興味深いから知りたいです。

天気予報では、大気の状態のシミュレーションだけでなく、機械学習が役立てられています。

たとえば気象庁では、スーパコンピュータによる大気の状態の予測から、天気予報や防災予報に必要な情報(天気や発雷確率など)を作成するときや、過去のスーパコンピュータのシミュレーション結果と実際の観測値のズレを修正したりするときに、機械学習が用いられています。

この機械学習を用いた処理を行うためには、膨大な学習データが必要となります。

回答:POPsな科学⁉スタッフ

気象がどのように化学汚染に関わってくるのでしょうか。どういった予報をすることで人は汚染を減らすことができるのでしょうか。

「大気の状態」=「気象」なので、たとえば風や雨で汚染物質が運ばれる…みたいなことで気象と化学汚染は深く関わりがあります。

汚染の広がり方は、風向きや生物の動きなどから予測することができるので、その予測に基づいて適切な対策を取れば、汚染範囲を減らせるかもしれません。

ただ、どんな予報がどれぐらい人間に影響するか、そして汚染を減らせるかは、予測不可能といえます。実際、COVID-19の感染拡大でのロックダウンによって、大気汚染が改善したというデータもあるぐらいなので。

回答:POPsな科学!?スタッフ

予測に必要なデータは何年ほど蓄積したら使えるとかはありますか?

残留性有機汚染物質(POPs)による化学汚染の予測について、過去数十年の対象物質の排出量データと気候変動データ(気温、降水量、風速、水温、塩分、流速など)を入力データとして、FATEなどの全球多媒体モデル(気候変動予測モデルの化学汚染版;cf. Kawai et al., 2020を使って現状の汚染状況を予測します(https://chem-theatre.com/fov/)。また、この先数十年の予測を行うときは、過去数十年のデータに加え、実際に予測したい未来の排出量および気候変動シナリオデータが必要になります。

全球多媒体モデルには入力データ以外にも、POPsに関する様々なプロセスについて様々な入力パラメータが必要になります。例えば、生物濃縮・蓄積の傾向は化学種や生物種によって異なるので、それに応じたパラメータ設定を実測・実験データから算出しなければなりません(実測・実験データが存在しないものについては、何等かの仮定を設けます)。そのために、我々はChemTHEATRE(https://chem-theatre.com/)などでデータの蓄積をしているわけです。

全球多媒体モデルによる予測が実測値(観測結果)から大きく外れる場合は、入力パラメータに疑いを持つのが基本です。それゆえ、CERISIER POPsプロジェクトでは、各種入力パラメータの平均と偏差を設定し、予測結果の不確実性を定量化する解析手法(Handoh and Kawai, 2014)を開発・改良しています。

回答:半藤 逸樹

キャスターさんなどを通して分析結果を発信するとき、分析者はどのような点に注意してキャスターさんにデータを提示するべきか、考えをお聞かせいただきたいです。

化学汚染の分析結果(広義にモニタリングやモデリングの結果とします。室内分析やシミュレーションの結果を含みます)は、客観的根拠のある事実(fact)です。しかしながら、この類の事実は、受け取る人によってその人の真実(truth)に変化します。「不都合な真実」になってしまうかもしれません。

事実(研究者が提示したデータ)が視聴者にとって理解し難い場合、当然のことながら、キャスターや演出プロデューサーは、平易な言葉を使って視聴者に伝えようとします(若干の脚色がついて、事実が真実に変わります)。したがって、研究者は、キャスターと適切なコミュニケーションを取ること、すなわちデータを提示する際に適切なサイエンスコミュニケーションを取り、事実を誤解が無いように伝えるべきだと考えます。CERISIER POPsプロジェクトの研究者は、「伝える」ことの重要性を、お天気お姉さんから学んでいます。

回答:半藤 逸樹

私たちは多くの化学物質に囲まれていますが、化学物質とは思わずに日々医薬品、化粧品、化学繊維などを使っています。日々生活する中でそれらを使わない生活ができない今、化学物質はますます広がって自然の自浄作用をはるかに超えてしまうのではないかと心配しています。将来的に、様々な予報の中に【危険化学物質予報】のようなものができるのでしょうか。私たち一般市民は、そんなことにならないよう日々の生活の中でどんなことに気をつけて生活すればよいでしょうか?

「危険化学物質予報」のような個々の物質についての予報ではないですが、化学汚染に限らず気候変動やオゾン層破壊なども含めた、地球のキャパシティに対してどれぐらい人間は環境負荷をかけているかを科学的に示す「地球の限界(Planetary Boundaries)」(https://www.stockholmresilience.org/research/planetary-boundaries.html)というものが提唱されています。

また、化学汚染については、残留性有機汚染物質(POPs)に関するストックホルム条約やバーゼル条約、水俣条約などの条約によって、有害な物質の製造や輸出入について、国際的に規制されています。

これらの条約がきちんと守られているかを監視し、今後どういった対策が必要になるかを考えることは、私たち市民の役割です。そのためにも、溢れる情報の中から、どの情報が必要で、何が正しいかを見極める力をつけることが大事だと思います。

回答:POPsな科学!?スタッフ

参考文献

Desforges, J. P., Hall, A., McConnell, B., Rosing-Asvid, A., Barber, J. L., Brownlow, A., Guise, S. D., Eulaers, I., Jepson, P. D., Letcher, R. J., Levin, M., Ross, P. S., Samarra, F., Vikingson, G., Sonne, C., & Dietz, R. (2018). Predicting global killer whale population collapse from PCB pollution. Science, 361, 1373-1376.

Dharmaraj, S., Ashokkumar, V., Hariharan, S., Manibharathi, A., Show, P. L., Chong, C. T., & Ngamcharussrivichai, C. (2021). The COVID-19 pandemic face mask waste: A blooming threat to the marine environment. Chemosphere, 272, 129601.

Fadare, O. O., & Okoffo, E. D. (2020). Covid-19 face masks: A potential source of microplastic fibers in the environment. The Science of the Total Environment737, 140279.

Handoh, I. C., & Kawai, T. (2014). Modelling exposure of oceanic higher trophic-level consumers to polychlorinated biphenyls: Pollution ‘hotspots’ in relation to mass mortality events of marine mammals. Marine Pollution Bulletin85, 824-830.

Järup, L. (2003). Hazards of heavy metal contamination. British Medical Bulletin, 68, 167-182.

Kawai, T., Sakurai, T., & Suzuki, N. (2020). Application of a new dynamic 3-D model to investigate human impacts on the fate of mercury in the global ocean. Environmental Modelling & Software, 124, 104599.

Riva, M. A., Lafranconi, A., D’orso, M. I., & Cesana, G. (2012). Lead poisoning: historical aspects of a paradigmatic “occupational and environmental disease”. Safety and Health at Work3, 11-16.

Ruddiman, W. F., He, F., Vavrus, S. J., & Kutzbach, J. E. (2020). The early anthropogenic hypothesis: A review. Quaternary Science Reviews, 240, 106386.

Westervelt, D. M., Horowitz, L. W., Naik, V., Tai, A. P. K., Fiore, A. M., & Mauzerall, D. L. (2016). Quantifying PM2. 5-meteorology sensitivities in a global climate model. Atmospheric Environment142, 43-56.

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