研究例1 海棲哺乳類の聴覚閾値と人間活動による海中騒音との関連性に関する調査について

研究の背景

海底調査、軍事演習、洋上発電、そして生活水・工業用水の排水といった事象に代表される通り、私達は様々な目的で海を広く利用しています。しかし、こういった利用が自然環境にもたらす定量的なリスク評価は、未だ十分に行われていません。その一例として2007年、天然資源防衛委員会(Natural Resources Defense Council)が米海軍に対し、2000年3月にバハマ沖にて行われたソナー使用を伴う軍事演習を原因としたクジラの集団座礁発生についての訴訟が行われています[i]


こういった事態を受け、私達は定量的なリスク評価を作成することを目標とし、種々の事象と海棲哺乳類達が示す影響との相関性について調査する研究を行っています。この記事ではその1つとして行っている「海棲哺乳類の聴覚閾値と人間活動による海中騒音との関連性に関する調査」について、紹介します。

海棲哺乳類とは

海棲哺乳類とは、クジラやイルカ、アシカやアザラシといった海で生活する哺乳類動物のことを指しています。

聴覚閾値(Threshold levels)とは

まずは「閾値」について説明します。閾値とは、私達生物が持つ感覚神経が感じ取る事ができる最小の刺激値のことです。従って聴覚閾値とは、雑音が無い環境下で対象生物が聴き取る事ができる最小の「音圧レベル」を意味しています。

音圧レベルとは

そもそも、音の大きさとはどの様に定義されるものなのでしょうか?これを理解する為には、まずは「音圧」について知る必要があります。


まず、音の正体は水中や空気中を伝播する「振動」です。この振動は、周囲の空気や水を押しのける事でこれらに圧力的なムラをもたらしながら、波の様に遠くへと伝わっていきます。これが「音波」です。音波が生み出す音の密度差は「正弦波」として視覚化され、その波幅は「振幅」として中等理科教育でもおなじみの音の大きさを表す指標となっています。


音の振動によって変化した空気や水の圧力を測定したものを私達は「音圧」と呼び、音の大きさを決定する材料として用いています。

デシベル(dB)と音圧の関係について

一般的に、音の大きさを表す単位として広く用いられている単位はデシベル(dB)です。しかし、このデシベルという単位は電力、電流、電波といった音以外の各分野でも広く用いられている単位であるため、ここでは音圧レベルに限定した「dB(SPL)」について解説します。


SPLとは“Sound Pressure Level”の略で、和訳すると音圧レベルを意味しています。SPLは以下の公式によって算出することが出来ます。

SPL=20㏒(P1/P0)
P1:測定音圧、P0:基準音圧(大気中では1μPa、水中では20μPa)

よってまとめると、デシベルとは測定音圧と基準音圧の比を対数でとり、20倍にしたものであるという事が分かるかと思います。また、大気中と水中とでは基準となる音圧が異なるため、同じ音に対するdBの大きさも変わります。

具体的な研究の段取り

私達は現在、海中で探査・軍事目的に使用されたソナーの音と海棲哺乳類の異常座礁についての関連性に着目し、調査を進めています。具体的には、NCBI(国立生物工学情報センター)が公表している「Taxonomy id」や、「IUCN(国際自然保護連合)レッドリスト」を用いた海棲哺乳類群の分類、各種論文の収集・解読による生物種ごとの聴覚閾値や海中騒音に関する調査、並びに各国の公的団体が公表している海中生物の集団へい死データの収集・視覚化を行っています。また、これらの調査から得られた定量的なデータをPython等のプログラミングを用いて図表化することで、両者の相関性についての分析を誰でも簡単に行えるようにしています。


以上がCERISIER POPsで進めている研究の一例になります。ここまでお読み頂き、ありがとうございました。

文責:新潟大学農学部農学科応用生命科学プログラム2年 樋口響


[i] 佐々木浩子(2013)、 「米海軍軍事ソナー訴訟 Winter v. NRDC事件 : 軍事ソナー演習時の環境配慮義務」、 慶應義塾大学学術情報リポジトリ(KOARA) 法学研究 86(3)

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